先日、能面を見かけた時に、
女型の能面の歯が真っ黒になっていることに
気づきました
これは「お歯黒」といって、
歯を黒く染める風習が日本に
古くからあったからです
今の私たちからすると「どうしてわざわざ?」と不思議に思う風習ですよね。
<どうして歯を黒くするの?>
平安時代の宮中では、男女を問わず、成人になった証として歯を染めました。
紫式部や小野小町も、にっこり笑うと真っ黒な歯が見えたはずです。
今でも、口の中が黒いひな人形や能面があるのはその名残です。
最初は貴族の風習から始まり、庶民に広がってからは女性によって人生の大転換期である婚約・結婚を迎えて染める風趣となっていきました。
黒は何色にも染まらない色なので、貞操を意味し、ついには既婚女性の象徴となったようです。
その後、江戸時代には既婚女性や遊女などの化粧として定着していきます。
お歯黒の風習は、明治政府の近代化政策により、チョンマゲや帯刀とともに禁止され、しだいになくなっていきます。
そして、大正時代にはほぼ全国からお歯黒の風習はなくなりました。
<お歯黒のむし歯予防効果!>
最初は白い歯を黒く塗るのは、
簡単なことではありません
初めは草木や果実染め的なものでしたが、やがて鉄を材料とした鉄漿水(かねみず)というものを使うようになりました。
これは、鉄の溶液を発酵させた染料です。
すごく臭かったみたいです。
歯を染めるにはこの鉄漿水と、ヌルデの葉からつくった粉を交互に、筆で歯に塗りつけます。何ヶ月も何年もかけて、真っ黒にしていくのは大変だったことでしょう。
化粧としても行われたお歯黒ですが、お歯黒をしている人はむし歯が少ないとわかりました
タンニン(渋柿の渋の成分)は、歯や歯肉のたんぱく質を凝固・収斂させ、細菌から歯を守る作用があります。
また、鉄漿水の主成分である第一鉄イオンには、歯の表面のエナメル質の主体であるハイドロキシ・アパタイトを強化して耐酸性を向上させる効果があります。
昔の人びとは知らないうちに、
むし歯予防をしていたんですね
さらに、お歯黒の材料は歯垢をよく取り除いて
おかないと歯に染まらなかったので、
当時の女性たちは楊子で丁寧に
取り除いていました。
つまり歯を黒くする為に効果的に
歯磨きをしていたのです
現在も、このお歯黒の有効成分が改良され、
製品として開発されています。
例えば、歯に接着するセメントに材料を加えて、治療後の歯がむし歯になりにくいように利用されています。
お歯黒のように無機質と有機質の両面からセルフケアを行い、歯が悪くなる前に歯を守る
「予防歯科」を、私たち日本人の祖先は
奈良時代ごろから開発し実践していたんですね。
昔には昔の文化があり、今の文化・風習も未来の人からすると考えられないものになっているかもしれません。
しかし今も昔も歯は大切に健康第一ですので、
歯医者さんに通って歯を守りましょう
皆さんの輝く白い歯が見える笑顔の写真が
未来の人の教科書に載るかもしれません
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